ミンガラドン空港での別れの日がやってきた。誠一郎たちは出国の手続きをしていた。
マーウィンがツアー客一人一人に別れの挨拶を笑顔で交わしていた。
年配の婦人が
「日程に入っていなかった日本人墓地がよかった。あんなのがあるなんて知らなかったわ。これからも案内してあげてください」
「ヨカッタ」
マーウィンが顔をほころばせて答えていた。
やがて出国カウンターに荷物を預け終わった誠一郎がマーウィンの方に近づいた。
「オトウサン ムスコガ ニホンカラ アウタメニ クルコト ソウゾウシテイナカッタ」
誠一郎は黙ってうなづいていた。
「オトウサン ヤジマサンノコト オモッテタ……」
マーウィンは言葉に詰まってしまった。
「ヤジマサン イイコト シタ」
「ありがとう」
誠一郎はマーウィンの顔を見つめていった。
「ミャンマーデハ イツモ ドコカデ ダレカガ イノッテル。 イノリノナカノ シシャハミナ オナジデス」
「……そうだね」
いよいよ別れが迫ってきた。誠一郎たちは出国ゲートに入っていった。
マーウィンがツアーのみなを見送るために立っている。白いブラウスに華やかな色がいくつも重なって見えるロンジーを身につけている。美しい立ち姿だった。
誠一郎はツアー客の後ろを歩いていたが、マーウィンのことがが気になって振り返るとマーウィンがいなかった。誠一郎はあたりを見渡すが、見失ってしまった。もう一度マーウィンが立っていた場所あたりを目で追うと、竪琴を抱えたビルマの僧が、大きなインコを肩に載せて静かに出口に向かって歩いていく後ろ姿が見えた。肩のインコが色鮮やかな羽を広げて後ろをふりかえった。
ツアーの同行の婦人が誠一郎の背中にそっとを手をおいて促した。
「さあ、行きましょう。マーウィンさん、もういないわ」
誠一郎は振り切るように前を歩いていった。
飛行機が離陸した。
誠一郎は旅を振り返り、目を瞑っていた。
「マーウィンさんいい人でしたね。日本に留学していたことがあるそうよ。だから若いのに日本語が上手なのよ。日本とミャンマーの歴史に興味があるそうよ。いい人にガイドになってもらったわ」
隣に座っている同行の婦人が誠一郎に話し続けてきた。
「実は私の歳の離れた兄が戦中ビルマで亡くなってるんですよ……詳しいことはわからないし、両親も語ろうとはしなかったし……私なんかも戦中は勤労動員で、工場で銃弾作ってたわ」
伊丹国際空港で誠一郎たちは挨拶をすますとそれぞれ別れた。
入国ロビーに出ると、妻の恵子と娘の幸恵の姿が見えた。
「あ、お父さん」
幸恵が手を振っていた。
「おかえりなさい」
と言いながら、妻の恵子が手荷物を預かった。
「迎えはいいといったのに」
「幸恵がどうしてもいこっていって」
幸恵が誠一郎の日焼けした顔をみながら
「おとうさん、日焼けしたよね。いい旅だったんでしょ?」
「さあ、家に帰ろう……」
<完>