Out of Far East    

アジアの歴史、民俗、言語、暮らし、読書、映画鑑賞など  by ほおのき麻衣

2024-04-01から1ヶ月間の記事一覧

雪解け ビルマ慕情(23)

酔いもまわってきて深雪はさらに饒舌になり、あいかわらず誠一郎がもっぱら聞き役にまわって時間が流れていく。 「父は別に戦争孤児ではないんですが、ちょっと訳があって戦後は孤児みたいな境遇になった人で」 世代間で戦争体験を語り継ぐことは必要かどう…

ひとときの始まり ビルマ慕情(22)

誠一郎は深雪にいわれたように地下鉄の入り口近くの交差点の角で待つことにした。しばらくすると、深雪が涼しげな夏のワンピースにアジアの民芸風のカラフルな布のショルダーバッグを肩にかけてやってきた。 「どこへいこうか?」 誠一郎は自分から誘ったも…

「きけ、わだつみの声」 ビルマ慕情(21)

次の日の3階のホールで行われる映画「日本戰歿学生の手記 きけ、わだつみの声」上映会にも誠一郎は来た。 上映時間まで時間を潰すために、やはり1階のロビーで「ミャンマーの今」写真展を見てすごしていた。上映時間になったのでホールへ上がっていくと、す…

講演後の二人 ビルマ慕情(20)

講演が終わるや否や、誠一郎は、入り口あたりにあるスタンド灰皿のそばにいき、ずっと我慢していた煙草を吸い始めた。 深雪は参加者のざわつきの中で会場の後片付けに追われていた。その深雪に斉藤が静かに近づいてきて「いいフェスティバルだね」と切り出し…

戦友を想う語り ビルマ慕情(19)

斉藤の講演に続いて、質疑応答に入った。 「あまり時間はないんですが、質問、意見、感想などありましたら、遠慮なく発言してください」 と深雪が言い終わるや否や、ある年配の男性が、自分の所属部隊を語り、あのインパール作戦を生き抜いてきた斉藤に共感…

学徒出陣 ビルマ慕情(18)

誠一郎は戦争のパネル展を見ている途中で、講演会が始まる時間になってきたので隣室の会議室に入った。50人ほどがすでにパイプ椅子に座っていたので、誠一郎は一番後ろの端の席にすわった。はぼ席は満員状態。 企画マネージャーの澤村深雪が、講演者の斉藤信…

悲劇の白骨街道 ビルマ慕情(17)

1944年(昭和19)1月インパール作戦が正式に発令された。第十五軍傘下の三個師団はそれぞれ準備に入った。 アラカン山系の一番険しい北側のルートを進むことになっていた第31師団は、補給のための自動車道路の開設と物資の集積に懸命だった。自動車に頼れな…

インパール作戦前夜  ビルマ慕情(16)

続いて誠一郎は、インパール作戦についての写真と解説を目で追い始めた。 1944年3月開始時点での日本軍の参加部隊指揮者は以下のようになる。 ビルマ方面軍司令官 川邊正三中将 | 第十五軍司令官 牟田口廉也中将 ーーーー第十五師団師団長 山内正文中将 第…

ビルマでの戦い ビルマ慕情(15)

ミャンマー(ビルマ)フェスティバル5日目。 誠一郎は深雪に言われたように講演会の時間より早めに来て、別室の戦争パネル展を見ることにした。カラー写真の「ミャンマーは今」展と打って変わって、戦中のビルマでの日本軍の様子が中心となった白黒写真だっ…