Out of Far East    

アジアの歴史、民俗、言語、暮らし、読書、映画鑑賞など  by ほおのき麻衣

文化欄の催し ビルマ慕情(8)

 

 暑い夏。8月に入って日差しがきつい日が続いていた。

 リビングルームでは扇風機が静かな音を立てて回っている。誠一郎はいつものようにソファにすわって新聞を眺めていた。庭に続くサッシは開け放たれ、時折涼しい風が入ってきた。

 妻恵子は今朝はまだ自宅にいた。遅出らしい。

 誠一郎の新聞のページをめくる手が止まった。

 何気なく文化欄を見ていると、ミャンマービルマ)フェスティバルという文字を見つけたからだった。今日から1週間、大阪市内にある国際交流女性センターという施設で行われるとある。ビルマという言葉にくぎ付けになっていることは、誠一郎だけが知っている。

 パネル展、講演会、映画上映、物品販売、書籍紹介と多彩な催しがおこなわれるとある。入場料無料。

 何か惹かれるものを感じていた。

 

「話し聞いてる?」

 突然恵子が誠一郎に近づいてきた。

「ん?」

「お義母さんの初盆のこと、京都のおばさんに電話しておいてね」

「うん」

 そう言って、今日は別に職安にいく予定ではなかったが、誠一郎は和室に入り、ポロシャツに着替えて出かける用意をした。

「職安に行くの?」

 恵子は、急に出かける用意をし始めた誠一郎に気がついて声をかけた。

「……うん」

「少し焦ってね」

 恵子が声をかける。恵子はもう焦らせる言葉しか口にしない。日中家にいられることにいらだっている。

「職安で手続きがあるし、ちょっと仕事をさがしてくる」

 誠一郎はズボンポケットに財布とハンカチが入っていることを確かめた。

「そろそろ次の職場見つかればいいのに」

 恵子は洗面所で洗濯機から洗い終わった洗濯物を出している。その姿をちらっと見て誠一郎は玄関を出た。

 ぎらぎらした太陽が駅まで向かう誠一郎の背中を照らす。

 春には満開だった桜の木から、風が花を散らし、後に残った葉桜をさらに側溝に吹き集め、いつしか人の手でかき集められ景色から消えていった。

 

 地下鉄天満橋駅の改札口を出ると、駅の道案内で目的地を確かめた。十分ほど歩いて行けば、確かに見慣れぬ大きな建物が目に入ってきた。仕事でこの前を通ったこともあったが、気づいたことはなかった。それもそのはず、まだできたばかりで地下1階、地上部7階建の壮大な外観をしていた。ビジネス街の中に突然現代版のお城ができたような威圧感があった。

 入り口には立て看が出ていて、ミャンマービルマ)フェスティバル開催と書いてあった。中ではたくさんの人が集まっている様子がガラス越しに伺えた。駅から誠一郎と同じ道をやってきた年配の女性たちが何人か、ワイワイ言いながら入っていく。

 ちょっと気後れしていた誠一郎もその流れについていった。