「このフェスティバルはどこで知りました?」
企画マネージャーとして知りたい情報だった。
「新聞で知って面白そうに思ってね」
「やっぱりミャンマーに関心があるんじゃないですか」
深雪は驚いた顔を誠一郎の方に向けた。
誠一郎は話題を変えようと思った。
「たくさん来てますね」
「ええ、各メディアがね、好意的に紹介してくれたこともあって、大成功です。写真入りで紹介してくれた新聞もあるんですよ」
深雪は会場を見回してうれしそうに笑顔を返した。
素敵な笑顔だと思った。
肩ぐらいの髪をハーフポニーテールにして、後ろに無造作に一つにまとめていた。化粧っ気のなさが新鮮だった。仕事で出会う女性たちはたとえか弱く見えても小さな戦士で、お互いの腹をさぐあったりつねに駆け引きをしているものだった。一方、夜の酒の場で出会う女性たちとも違う。
「明日はビルマ戦線に参加した元将校の方が、体験談を語ってくれることになってるんですよ」
深雪は山崎に説明した。
「ああ、そうらしいね」
もうすぐ8月15日の終戦記念日が近づいていた。企画を任されていた深雪は、ミャンマー(ビルマ)フェスティバルとは別枠で戦争を考える催しを取り入れた。第一弾は講演会であり次の日は映画上映、そして終戦記念日までビルマ戦線、とくにインパール作戦についてのパネル展をすることになっていた。
「おじさんと話しが合いそうよ。インパール作戦について考えるパネル展もするので、ぜひ来てね」
深雪が山﨑を誘っている。
そして誠一郎の方に向いて
「いい話しが聞けそうですよ。パネル展も別室でやるのでぜひ来てください」
「あなたが企画したんですか?」
「そうです。もちろん他にメンバーもいるんですが、私がかなり推しました。だからたくさんの人に来て欲しいんです」
誠一郎は、インパールというぼんやりした言葉を、若い女性がいとも簡単に口にすることにとまどっていた。
誠一郎にとって知ってはいるが、決して口にすることがなかったことばだった。遠い過去、高校生のころに少し興味を持ったような気がする。といってもその後の人生の喜怒哀楽で点にもならない記憶になったままだった。
だが、はじめて聞く言葉ではないことは確かだった。
「インパール……」
誠一郎は改めてつぶやいていた。
「そうです。ご存じですか?」
深雪は誠一郎の方に身をかがめるように確かめてきた。
「うん、聞いたことがあるかな」
誠一郎は深雪とは視線を合わせず答えた。
「よかったわ。はじめて聞いたわなんていう人が多くて、だからパネル展もセッティングしたんです。インパールってインドの町の名前で、戦中そこは連合軍の拠点になっていたんです。で、その町を日本軍がビルマ側から3個師団を使って3方向から、攻め入ろうとした作戦なんです。結局敗退して犠牲者も多くでて、まあ、悲惨な結果になったんですが」
誠一郎は平静を装って聞いていた。
山﨑は缶ジュースを手にもって二人のやり取りをじっと聞いていた。
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<お知らせ>
実は一週間ほど前から頚椎症が再発して、現在肩と腕の痛みと痺れの治療中です。
完全に治ってから続きを書きたいと思っております。更新はしばらく休みます。