Out of Far East    

アジアの歴史、民俗、言語、暮らし、読書、映画鑑賞など  by ほおのき麻衣

2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

手紙と形見 ビルマ慕情(31)

翌朝、一人になったリビングルームで、誠一郎は深雪からもらった山崎の手紙を出して読んでみた。 拝啓 やっと朝夕涼しくなってきて、秋の音づれが待ち遠しい季節になりました。 今日、姪がわざわざ訪ねてきてくれて、君の父上がインパール作戦に参加して亡く…

揺れる心 ビルマ慕情(30)

市内の旅行代理店の受付カウンター。 誠一郎はミャンマー旅行のツアーを申し込み、旅行代金の支払いを済ませて、旅行の説明を受ける。 「まだ、定員に余裕ある?」 「まだ若干あります……同伴者がいるんでしたら、できるだけ早くお願いします」 カウンターの…

母の思い  ビルマ慕情(29)

誠一郎は深雪に勧められたミャンマーツアーのことを、恵子にどう切り出すかで悩んでいた。 夕飯後、恵子は台所で洗い物をしている。肩までの髪を無造作に後ろにまとめていて、腰あたりのエプロンの紐が揺れている。後ろ姿が疲れている。 誠一郎は食卓テーブ…

ミャンマーツアー ビルマ慕情(28)

ω 8月に入ると広島平和記念日、長崎原爆の日、終戦記念日を迎える。世間ではこの頃は盆休みに入り、企業の経済活動に目立った変化はあまりない。 だが、誠一郎は職安に行き、新たな新規求人募集がないか調べることにした。職を求めてくる人は減ってはいたが…

母の初盆 ビルマ慕情(27)

今日は母絹江の初盆の日だ。 この日のために、恵子が誠一郎が育った家で準備を進めていた。絹江が昨年亡くなって以来、家はそのままになっていたが、初盆を無事に終えてから家の処分は考えるということを恵子と相談していた。 妻恵子の両親と母絹江の唯一の…

急がば回れ ビルマ慕情(26)

二人は居酒屋を出て、駅に向かって歩き始めた。 言葉少ない会話とややふらつきながら、 「ミャンマーへ行ったことはあるんですか?」 唐突に深雪が誠一郎の顔を正面から見据えていった。 「ミャンマーに?」 と誠一郎は問い返しながら、一瞬立ち止まった。 …

名刺のない生活 ビルマ慕情(25)

「毎日フェスティバルに来られていたじゃないですか……会社勤めの方とは思わなかったわ。最初はメディア関係の方だと思ったけど、そうでもない感じで、どういう人かなと思ってたんですよ。とにかく時間がおありなそうなので余裕のある方にはみえたわ」 深雪は…

水島上等兵 ビルマ慕情(24)

誠一郎の両親は、新婚まもない頃に赤紙が届き父親は徴兵された。実はその時、母親は妊娠していた。父は産まれた子が男なら誠一郎と名づけるようにいって出征していった。そして戦地から戻ってきた骨壺には小さな石ころだけが入っていたらしいこと。 戦後は母…