2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧
いつか書いておきたいと思っていたこと。自分もいつどこでどうなるかわからない時代になってきたので、やっぱり書いておこう。 自分が生まれ育ったA市はあまり好きになれない。家庭の中でも外でも居場所がなかったからだと思う。 1985年にそのA市の最北部に…
ミンガラドン空港での別れの日がやってきた。誠一郎たちは出国の手続きをしていた。 マーウィンがツアー客一人一人に別れの挨拶を笑顔で交わしていた。 年配の婦人が 「日程に入っていなかった日本人墓地がよかった。あんなのがあるなんて知らなかったわ。こ…
翌朝、誠一郎たちはマーウィンに案内されて、飛行機で世界三大仏教遺跡・バガン観光の玄関口であるニャウンウーへ向かった。 到着後、ナッ神信仰の聖地ポッパ山のふもとに聳えるタウンカラッを訪ねたり、パゴダや寺院群が多く残るオールド・バガンの仏教遺跡…
翌朝、誠一郎たちは朝食をすませて、ホテルのロビーに集まった。 マーウィンがやってきた。日程表によれば、今日は一日ヤンゴンの市内観光になっていた。マーウィンは日程表に入っていない日本人墓地を、午前中案内することを提案してきた。 誠一郎がミャン…
大阪国際空港の出発ロビー。 誠一郎たちは旅行会社の担当者の指示に従い、搭乗手続きを進めていた。 誠一郎を含めて年輩の人ばかりで7人の小さなグループである。互いの自己紹介をしたが、一人で参加したのは誠一郎だけである。そして誠一郎が一番若く、他…
翌朝、一人になったリビングルームで、誠一郎は深雪からもらった山崎の手紙を出して読んでみた。 拝啓 やっと朝夕涼しくなってきて、秋の音づれが待ち遠しい季節になりました。 今日、姪がわざわざ訪ねてきてくれて、君の父上がインパール作戦に参加して亡く…
市内の旅行代理店の受付カウンター。 誠一郎はミャンマー旅行のツアーを申し込み、旅行代金の支払いを済ませて、旅行の説明を受ける。 「まだ、定員に余裕ある?」 「まだ若干あります……同伴者がいるんでしたら、できるだけ早くお願いします」 カウンターの…
誠一郎は深雪に勧められたミャンマーツアーのことを、恵子にどう切り出すかで悩んでいた。 夕飯後、恵子は台所で洗い物をしている。肩までの髪を無造作に後ろにまとめていて、腰あたりのエプロンの紐が揺れている。後ろ姿が疲れている。 誠一郎は食卓テーブ…
ω 8月に入ると広島平和記念日、長崎原爆の日、終戦記念日を迎える。世間ではこの頃は盆休みに入り、企業の経済活動に目立った変化はあまりない。 だが、誠一郎は職安に行き、新たな新規求人募集がないか調べることにした。職を求めてくる人は減ってはいたが…
今日は母絹江の初盆の日だ。 この日のために、恵子が誠一郎が育った家で準備を進めていた。絹江が昨年亡くなって以来、家はそのままになっていたが、初盆を無事に終えてから家の処分は考えるということを恵子と相談していた。 妻恵子の両親と母絹江の唯一の…
二人は居酒屋を出て、駅に向かって歩き始めた。 言葉少ない会話とややふらつきながら、 「ミャンマーへ行ったことはあるんですか?」 唐突に深雪が誠一郎の顔を正面から見据えていった。 「ミャンマーに?」 と誠一郎は問い返しながら、一瞬立ち止まった。 …
「毎日フェスティバルに来られていたじゃないですか……会社勤めの方とは思わなかったわ。最初はメディア関係の方だと思ったけど、そうでもない感じで、どういう人かなと思ってたんですよ。とにかく時間がおありなそうなので余裕のある方にはみえたわ」 深雪は…
誠一郎の両親は、新婚まもない頃に赤紙が届き父親は徴兵された。実はその時、母親は妊娠していた。父は産まれた子が男なら誠一郎と名づけるようにいって出征していった。そして戦地から戻ってきた骨壺には小さな石ころだけが入っていたらしいこと。 戦後は母…