Out of Far East    

アジアの歴史、民俗、言語、暮らし、読書、映画鑑賞など  by ほおのき麻衣

インパール作戦

インパール作戦という言葉を聞いてビルマ(現在のミャンマー)を想像できる人はどのくらいいるのかな。

 

高校では日本史はほとんど勉強したことがなく、教科書に載っていたのかわからない。普通に勉強してきた知り合いに「知ってる?」と訊いたことがあるが、「聞いたことはある」という程度の返事で詳しくは知らないようだった。

 

私は、若い頃にアジア関連の民間図書館の運営を手伝っていたことがあり、そこを通過しなければ決して知ることはなかったと思う。

その民間図書館のビルマ関連の本が並ぶ棚は独特のメッセージを放っていると個人的には思っていた。というのは第二次世界大戦中の戦記物が多かったからだった。

東南アジアの他の国々の中では圧倒的に多かったように記憶している。

 

この棚の前で戦死した仲間を思って「無駄死と言われたくない」というような内容を呟いていた「老兵」がいたのを覚えている。

 

自費出版も少なくなかった。戦後悲惨な戦場からかろうじて日本に帰ってきた人たちが、これだけは語っておきたいという気持ちで出版されたものだ。熱の入れようが違う。当時数冊は読んだと思うがとても興味深いものだった。

 

英軍が迫ってくる中、敗退する日本軍はつり橋を爆破する必要が生じた。一人の脱走兵が自分はもう元の隊に戻れないのでということで、自ら爆弾を抱いてつり橋の上で自爆したという件を読んだことがある。多分詳しいことはわからないままの戦死の一つになったと思う。

 

このビルマ戦線は戦場となったビルマだけでなく、日本はもちろん、イギリス、英領インド、日中戦争真っ只中の中国とアメリカそれぞれの国の思惑が絡んでいて、全体を理解するのは易しくはない。

 

私は戦争には絶対反対する立場だが、この作戦自体は大きな地図を広げて考えると壮大なことがわかる。「犠牲者」のことを考える必要がないなら戦略的には面白いとさえ言える。迎え撃つイギリス軍の思惑も興味深い。

それと戦争には物資の補給を考えることも大事で、これを軽視した戦略は結局失敗することを知った。輜重兵(しちょうへい)という言葉はこの作戦で知った。

「無謀な計画と作戦強行」がインパール惨敗の原因と言われる所以である。

 

で、このインパール作戦について初心者にもわかりやすい1冊を紹介するなら、NHK取材班が編集して1993年に出版された『責任なき戦場インパール』をあげる。

元々テレビでNHKスペシャルとして放映されたものが元になった本だ。当時はビデオカセットに録画して繰り返し見たものだった。

 

このインパール作戦は敗退に終わったにもかかわらず、誰も責任らしい「責任」をとっていないことはよく知られている。

取材班はそこにも焦点を当てていて、本の中から引用すると、

 

「私たちが、インパール作戦を検証しようと決めたのは、太平洋戦争の中でも最も無謀といわれるこの作戦の決定と実行のなされ方を見てみると、そこにきわめて日本的な組織決定の過程と責任のあり方という問題が、浮かび上がってくるからである。「白骨街道」の悲劇を引き起こした、その日本陸軍の「組織の体質」が、半世紀近くたった今も、日本のさまざまな組織の中に確実に棲んでいることに慄然とするからである。」

 

それとこの頃「従軍慰安婦」のことがメディアでも取り上げられていた記憶がある。

従軍慰安婦そのものを扱った本はいろいろあると思うが、一般的な戦記で触れられることはほとんどないはず。

この本ではビルマ日本兵の相手をさせられていた女性たちにも言及していて、イギリスで見つかったニュースフィルムの中に映像として残されていることにも触れている。

写真も掲載されていて、戦場に不似合なワンピースを着た彼女たちの姿に言葉が出てこない。

 

ということで、この本は取材陣やプロデューサーの知性と良心が反映されていて、個人的に敬服している本の一冊になっている。

 

ではでは