Out of Far East    

アジアの歴史、民俗、言語、暮らし、読書、映画鑑賞など  by ほおのき麻衣

再就職 ビルマ慕情(1)

 平日の昼下がり、リビングルームの電話の音が鳴る。

「はい、矢島です」

「こちら東和化成ですが、矢島誠一郎さんですか?」

 先日再就職のために面接を受けた会社の若い女性の声だった。電話連絡は初めてだった。いつも履歴書を返送されるだけだったので、一瞬いい返事かもしれないと思った。

「はい、そうです」

 誠一郎の声は上ずっていた。

「今、部長の田崎と代わります」

 受話器の向こうの相手が女性から先日面接を担当した人物に代わった。聞き覚えのある低い声だった。社内で検討した結果、採用を決めたという朗報だった。

「ありがとうございます」

 誠一郎は、面接の時から今までにない相性の良さを感じた人物に電話で何度も礼をいった。肩の荷が降りる気分で、これで再就職戦線から離脱できたと思った。

 春に会社を退職して、すでに朝夕すっかり秋らしくなっていた。

 

 その日の夜、妻恵子に再就職が決まったことを伝えた。

「よかった」

と身体から搾り出すように一言つぶやいて、

「給料のことは気にしないで。私もパートでやっていくし、子どものためにもう少し頑張ろ」

といって、台所で洗い物を始めた。

 家庭の中の歯車がまたゆっくり回り始めたようだ。

 

 東大阪にある東和化成株式会社の自社ビルの2階にある事務室。

 この職場で誠一郎が働き始めてまだ1か月もたっていない。

 以前の会社に比べれば規模ははるかに小さいが、誠一郎は今までやってきたことを評価した上での採用となったのがうれしかった。再就職戦線で自尊心を失いかけていた誠一郎にとって、給料は下がってもそれほど気にならない。恵子も大丈夫だと言ってくれている。

 ひっきりなしに電話がなっている。

「仕事、慣れてきました?」

 同僚の一人がコーヒーカップを片手に誠一郎のデスクを覗き込むようにして声をかける。新しい同僚も誠一郎と歳は同じぐらい。

「ええ、そうですね」

「MID Japanにいたんですよね……すごいじゃないですか……みんなうわさしてますよ」

と誠一郎の前の会社を口にする。

 誠一郎は書類作成の手をやすめない。

 

 社内の時計が12時をすぎた。同僚たちと近くの食堂で昼食をとり、社に戻る前に煙草をすいたいのでと言って、ひとりで公園のベンチに腰かけた。事務室での喫煙はできるだけ止めるようにしていた。

 誠一郎は煙草をくゆらせながら考え事をするのが好きだ。

 目の前には鳩がむらがっている。

 子どもを遊ばせている母親が何人かいる。急に飛び立つ鳩にびっくりして泣き出しそうなったわが子を抱き寄せていた。

 いつしか忙しそうに動き回る若い女性の後ろ姿を思い出していた。いろいろ聞いてもらいたいことがある。新しい職場に慣れて落ち着いたら、早く会いに行こうと思った。

 誠一郎はベンチから立ち上がり社に戻り始めた。